「ダオス・・・・?」 そこには思いもしなかった人物の姿があった。 「そんな、何故ここに・・・!?」 あまりに突然の出来事に一同はただ彼を見据えるしかなかった。 やがて視界が開け、改めて彼の姿が映し出される。 「どうやら間に合ったようだな・・・しかし、いつの時代も争いというものは好かんな」 男はゆっくりと立ち上がり、ようやくハロルドを解放してやる。 「あいたたた・・・なんなのよ、もう」 まだ懲りていないハロルドを横目に、男はクレスに微笑みかける。 まだ動揺している様子の彼に近付き、そっと頬を撫でる。 「遅れてすまない、大丈夫だったか?」 「え・・・っあ、うん・・・ありがとう。でもダオス、どうしてここに?」 戸惑うクレスの問いには答えず、鋭い視線だけをハロルドに向ける。ダオスは今の酷い状況に怒りを覚えていた。 一方、全く反省の色を出さないハロルドは自身の発明が破壊され、違う意味で怒りを覚えていた。 「いきなり出てきてなんなのよ!あたしの研究の邪魔をしないでちょうだい」 「こんな事をして何になるというのだ。これ以上無駄な争いは起こさないでくれ」 鋭く、しかしどこか悲しげな表情でハロルドを見据えるダオス。 ハロルドはいよいよ観念したのか、わざとらしいため息を吐き捨て両手を広げる。 「わかったわよ、元に戻せばいいんでしょ?」 しかし、寸手のところではたと手を止める。 「・・・これ、どうすれば元に戻るのかしら?」 一同は怒りを通り越し、もはや呆れた表情で彼女を見る。 「自分でやっておきながらそりゃないよ・・・」 さすがのカイルも、ハロルドの行動ばかりは手に負えない様子だった。 あれやこれやと試すハロルドだったが、フィギュアとなった者が元に戻る事はなかった。 仕方なくマリオはいつものようにフィギュアに手をかざしてみせる。 すると、石のように固まった姿がたちまち人の姿へと戻った。 「あら、そんな簡単に戻せたの?」 「普通の人には戻せないんだ。僕らみたいなファイターじゃなければね」 「何よ、それを早く言いなさいよ!・・・でも、ちょっとまって」 ふとハロルドは何か考え込む。一同に戦慄が再び走る。 しばらく黙り込んだ後、いつの間にかフィギュアとなっていたリンクをひょいと持ち上げ 何も言わずそのまま何処かへ持ち去ってしまった。 「・・・止めなくていいのか?」 スタンが心配そうに訊ねるが、誰一人として前に出る者はいなかった。 「(だって、被害に遭うの嫌だし)」 一同が表情でそう訴えていた。スタンはそれ以上何も言えなかった。 ハロルドがいなくなったことにより、とりあえず戦士たちや街の人たちが深く安心の息を吐いた。 フィギュアに変えられたり怪我を負ったりした人を治そうとしはじめ、街がざわつき始めた。 「全く、なんだあの者は・・・」「そうだ、クレス。昨日の夜やっと決心が付いた・・・」 ダオスがクレスの方を改めて見て、手を差し伸べて強い意志を持って言う。 「これからは、『友』として私と接して欲しい」 その発言に、クレスは心にあった重い何かが無くなった・・・そんな気がした。 「・・・・・ああ」 クレスは、そっとダオスの手を握った。 「ところで、リンクは後で助けるとしてこの街でどう過ごす?」 マリオが腕を組みながら疑問を口にする。 「あ、そうですね。僕に任せてください。」「仲間と一緒にいろんな場所に住まわせてくれるよう相談してみます」 そう言うと、クレスは周りにいた少年たちを呼び集めて相談を始め、それがしばらく続いた。 それが終わると、集まっていた少年たちがいくつかに分かれてどこかへと走っていった。 唯一残っていたのはクレスであった。 「みんなが今動いてくれてるから、しばらくここで待ってて。」 「クレス、君はどうしてここに残ったんだ?」 「連絡係です」 なるほど、とその場にいた戦士たち全員がうなずいた。 その間、皆はこの世界についてクレスからいろいろ説明を受けた。 この世界は、役目を終えた人たちの休息の世界であること。 大陸はあった当時の大陸を再現したものがほとんどであること。 そして、元の世界は存続に問題が生じたことのあるような世界だったこと。 最後に、外の世界での当時の世界たちの総じた名称は「テイルズオブシリーズ」であったこと。 少し覚えることが多かったものの、ここが平和な世界であることに戦士たちは安らかな気持ちを抱いていた。 クレスが説明を終えて、その後皆で楽しく談笑していると少年たちが段々と戻ってきた。 交渉に出た少年達が全員戻って来た後クレスが結果を聞くと・・・交渉した少年たちは口を揃えて戦士たちにこう言った。 「さぁ、それぞれ住みたい場所を決めよう!!」 この言葉に戦士たちは大きな声を挙げて喜んだという。 「でも、こんな人数が多いけど大丈夫なのかい?」 戦士達が喜んでいる中、マリオだけは少々不安そうな様子だった。 40人近くもいるこの集団をいかにまとめるかが、今の彼の役割でもあった。 「うーん・・・場所によってはちょっと狭くなっちゃうかもしれない。それでもいいかな?」 「それは大丈夫だよ。でも悪いね、いきなりこんな人数で押しかける形になって」 早速場所決めで盛り上がる戦士達を見て、マリオとクレスは顔を見合わせて苦笑いする。 一方、場所決めでいつにもなく賑わいを見せている戦士達は あれやこれやと好き勝手に話し合ってなかなか場所が定まらないでいた。 特に子供達は初めて見るものばかりであちこち走り回るので収集が全くつかない上に 話し合いに全く興味を示さない者も中にはいるわで、余計に場所が決まらない。 「このままだと日が暮れてしまうぞ、どうするんだ?」 半ば興味のなさげだったアイクが重い腰を上げてようやく話し合いに関わってきた。 「まあこうなるとは思ってたけどね・・・僕もお手上げだよ」 とりあえずこの場をまとめようと健闘していたマルスも呆れた様子だった。 話し合いというよりも、今にも乱闘が始まらんばかりの熱気と混乱で 改めてこのメンバーの落ち着きのなさを実感した。 日も傾き始め、ようやく落ち着きを取り戻した一同は クレスとマリオを中心にようやく本題である宿を決め始めたのだった。 「孤児院、マリーの宿屋、大陸で一番大きな城、僕達の家、ダイクの鍛冶屋・・・ 候補はこれくらいしかないけど、上手く人数を振り分けて欲しいんだ。 各場所の詳しい事については現地で直接聞いてもらうことにするよ」 クレスの説明が一通り終わると、またしても戦士達は騒ぎ始める。 「・・・話し合いで何とかなる奴らじゃないな」 頭よりも先に体が動く戦士達に呆れるダオスと、もう笑うことしかできないクレス。 「いつもみたいに乱闘で決着をつけてしまおう」 が、動じる事なく、マリオはさらっとそう言ってのける。 「合図と同時に各自行きたい場所に向かってくれ。 場所によって行ける人数が違うから、定員オーバーになったら奪い合いだ。それでいいね?」 そういうなり、マリオは自分だけとっとと走り出す。 こう見えて彼もちゃっかりしているのである。 「ちょ、ちょっと待てマリオ!合図はどうした!」 後を追うように他の戦士達も走り出した。 こうして、戦士たちにとっての「日常」が巡りだした。 彼ららしく、の日常が確かに今。形となって、事実となっていく。 それを、静かに遥か遥か遠くから見守る存在が、いた。 一つは、大きな手の影が。もう一つは、清らかな女性の影が。 戦士たちの世界から、確かにその2つの存在が戦士たちを、町の住民たちを、 ――――そして、これから始まる2つの世界の住民の交わりの物語を、ただただ静かに見守っていた。 "The story just started now. " メニューへ戻る↑